Rhizomatiks Research×ELEVENPLAY
ダンスパフォーマンス『border』プレビュー公演
2015年12月4日(金)
スパイラルホール(東京都港区南青山5-6-23 スパイラル 3F)
ちょっとあいだがあいてしまったが山口情報芸術センターでの公演も終わったことだし、2015年12月にRhizomatiks Research×ELEVENPLAYのborderを体験してきたことをネタバレ的に書き留めておく。
ダンスパフォーマンスBorderは「メディアアーティストの真鍋大度・石橋素らが率いる『Rhizomatiks Research』と演出振付家のMIKIKOが率いるダンスカンパニー『ELEVENPLAY』のコラボレーション(Webサイトより)」という形で行われた。
観客はWHILLと呼ばれる車椅子型パーソナルモビリティに座り、目にはヘッドセットディスプレイを、耳にはヘッドホンを装着する。
みずからの感覚は外界からは遮断され、すべて一旦、コンピュータを通して再合成されたイメージとなってカラダに入ってくる。WHILLはプログラミングされており、室内を縦横無尽に動くわけだが、視覚も聴覚も奪われており、カラダには加速度だけ伝わる。ヘッドセットディスプレイの前にはカメラがついており、これが自分の視覚の代わりとなるが、実際には再合成されているので、見ているものが「今、その場で起こっている」ことなのか「コンピュータが作り上げたバーチャルな映像」なのかは区別がつかない。聴覚は流れている電子音楽により満たされ「音」によって外界の様子を察知するようはことはできない。
カメラ経由での視覚にはダンサーが現れ、そして消える。現実空間の視界とコンピュータで作られた仮想空間を行き来きする。仮想なのか、それとも現実なのか、見ている側は常に、それを疑いながら「椅子にくくりつけられ」自分の意思で見ることも聞くこともできず身体性を剥奪されたまま入ってきた情報を頼りに判断することになる。夢なのか現実なのか、バーチャルなのかリアルなのか、植え付けられた記憶なのか、現実の記憶なのか、揺らいだ認識の中で過ごすことになる。
一旦、フロアーで行われていたダンス・パフォーマンスが終わり、WHILLから降り、今度は観客席から次回のダンス・パフォーマンスを見る。そこでは先ほどと同じ動きが繰り返される。
私にとっては、ここが一番興味深かった。
ヘッドセットディスプレイを経由して視覚化されていたダンサーの動きと、このリアルな世界で踊っているダンサーの動き、動きは同じであっても世界は別である。そして、このリアルの世界で踊っているダンサーを後から見せているのは、現実か仮想かで揺れ動いていた判断を現実側に引き寄せるための作業であると気がついた。
まったく切り離されている世界の2つの出来事〜1つはバーチャルであり、もう1つはリアルであるものだが〜それを意図的にリアル側から再確認させることで、過去の自分はリアルで起こっていたことを見ていたのだ、と思わせるのである。わざわざニセの記憶にすり替える作業を意図的に行っている。
同じものが同じ動きをしているのを見ているが、両者の世界はつながっていない。つなげているのは人の記憶である。しかも、それは後からすり替えられた記憶なのである。
この作品は人間の記憶をハックしている。
それに気がついた時は、カバ肌であった。
新作ダンスパフォーマンス border
http://www.rzm-research.com/border/